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1. はじめに
海辺は我々の心にやすらぎや潤いを与えてくれる貴重な空間である。また、多様な生物の生息場でもある。しかし、沿岸海域の水質は富栄養化が進行しており、その水環境は良好なものとはいいがたい。したがって、豊かで快適な海域環境を創造していくためには、水域の浄化を図る必要がある。
水域の浄化においては、下水道整備や有機底質の浚渫など、汚濁発生源に対して策を講じるのが着実である。しかし、これらは規模、費用などの点から長期的な事業として取り組まざるを得ない。もう1つのアプローチとして、水域を直接浄化する方法がある比較的汚濁レベルの低い大容量の水を対象とするため、安価に大規模におこなう必要があり、水域に元来備わっている自然の浄化機能を積極的に活用することが有効と考えられている1)。
赤井らは、汚濁した沿岸海域に石積みによって囲まれた水域を創出し、潮の干満や波動などの自然エネルギーを利用して、堤体間隙内に海水を通わせ、石積みに生じる自然の浄化機能によって海水を直接浄化するシステム「海洋の空(うつろ)」について報告している2),3),4)。しかし、水質浄化性能についての実測値に基づく定量的な評価は十分にはされていない。そこで、1993年7月に実海域に実スケールに近い施設を築造し、現地実験を行っているここでは、水質浄化性能の季節変動と水量負荷の影響について、現時点までに得られた知見を報告する。
また、資源を有効活用するという視点に立ち、コンクリート廃材を石積み堤の代替材料として利用することについて、室内実験によって適用性を検討した。
2. 石積み浄化堤による海水浄化システムの概要
Fig-1には、石積み浄化堤を実海域に適用したときのイメージ図を示す。本工法では、汚濁した沿岸海域に石積みによって囲まれた水域を創出する。潮汐や波浪などによって海水が堤体内を通過する際、石積みに生じる自然の浄化機能によって汚濁した海水は直接浄化される静穏で清澄な内水域は、親水空間として、また、水際生態系の創造の場としての活用が考えられる。具体的には、人工海浜、人工干潟、人工環礁、魚介類の育成場、魚釣り場、清浄な海水の取水場等があげられる。
海水の浄化に関与する因子のうち、物理・化学的作用としては、礫間そして静穏な内水域への懸濁物質の沈降堆積、汚濁物質の礫表面への付着(吸着)等が考えられる。これらのうち、後者については、以下に述べる生物的作用と相互に関連した浄化作用といえる。一般に、沿岸域などの礫の表面には、細菌類・藻類などの微生物群が付着する。これは生物膜と呼ばれ、この生物膜に海水中の懸濁物質が付着することによって、海水が浄化される。さらに、付着微生物は溶存態有機物質の酸化分解やアンモニア態窒素の硝化、脱窒もおこなう。また、フジツボ、ムラサキイガイなどの大型の付着生物群は、植物プランクトンなどの懸濁物質を直接吸水ろ過し、海水を浄化する。さらに、生物

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Fig-1 Anexample of sea water purification system with mbble mound

 

 

 

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